研究概要 |
本研究においては,潮間帯,タイドプール.汽水域のいずれにも生息し,高い浸透順応性を示すマガキを用いて,タウリン輸送に関わるタンパク質性分子であるタウリントランスポーターに注目して,海産無脊椎動物のすぐれた細胞内浸透圧調節機能が,脊椎動物にはない無脊椎動物に特有のタウリントランスポーターの機能持性から説明可能かどうかを検証することを目的としている。 初年度である平成11年度は,浸透圧変化に応答した細胞レベルのアミノ酸量の検討ならびにマガキのタウリントランスポーターcDNAクローニングを当初の研究計画とした。通常海水で約1週間馴致したマガキを,2倍および1/2倍海水に2,8,24時間暴露し,浸透圧ストレスを与え,鰓,外套膜,閉殻筋,血リンパについてPTC法により遊離アミノ酸量を測定した。その結果,1)ストレスに暴露していない個体の鰓,外套膜,閉殻筋においてタウリンがもっとも多く(29.6-77.7μg/g湿重量),遊離アミノ酸の中でオスモライトとしてタウリンが重要な働きをしていること,2)低浸透圧ストレスではこれらの器官はおもにタウリンを放出することにより細胞容積を調節していること,3)高浸透圧ストレスでは閉殼筋において有意なタウリンの増加がおこること,が明らかとなった。そこで浸透圧ストレスを与えたマガキ組織からのタウリン輸送を担うと考えられるトランスポーター遺伝子のcDNAを試みたが,既知の哺乳類のアミノ酸配列を参考にデザインしたプライマーを利用したPCR法ではクローニングできなかった。そこで,同様の浸透圧ストレスを与えたムラサキイガイを対象として同様の実験を行い,タウリントランスポーターと考えられる遺伝子のクローニングを試み,それに成功した。ムラサキイガイにおいては,この遺伝子のmRNAは高浸透圧ストレスで鰓と閉殻筋に,低浸透圧ストレスで閉殻筋において多量に検出され,演繹アミノ酸配列からタウリントランスポーターをコードする可能性が高いと考えられた。
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