研究概要 |
本研究においては,潮間帯,タイドプール,汽水域のいずれにも生息し,高い浸透順応性を示すマガキを用いて,タウリン輸送に関わるタンパク質性分子であるタウリントランスポーターに注目して,海産無脊椎動物のすぐれた細胞内浸透圧調節機能が,脊椎動物にはない無脊椎動物に特有のタウリントランスポーターの機能持性から説明可能かどうかを検証することを目的としている。 2年目である平成12年度は,昨年度,ムラサキイガイから得ることができたタウリントランスポーターと想定されるPCR断片をもとに,3′ならびに5′-RACE法により全長のクローニングを試みた。閉殻筋から調製したcDNAを鋳型として得られた本遺伝子はタウリントランスポーターのほかにベタイン/GABAトランスポーターと高い相同性を示した。 また,本遺伝子の浸透圧変化応答したmRNAの発現様式の変化をノーザンブロット法により検討ところ,1.5倍海水ではいずれの器官においても暴露後2時間でmRNAの発現誘導が認められた。また,程度は弱いものの,0.5倍海水においても同様の発現誘導が確認された。細胞容積調節の観点からは,低浸透圧による発現誘導は予想外の結果であるが,本研究室ですでにクローニングしたマガキ由来のアミノ酸トランスポーターの発現誘導も同様の結果を示すこと,一方,哺乳類に加えコイやティラピアなどの魚類においてもこれらのアミノ酸トランスポーターは高浸透圧にのみ応答し,低浸透圧には応答しないことから,海産無脊椎動物の低浸透圧応答機構は,単純なオスモライトとしてのアミノ酸の放出ばかりでなく,取り込みも関与した複雑な反応であることが予想された。
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