研究概要 |
平成12年7月に厚岸湾(北海道)で採取した10種Nemertellina yamaokai、Micrura akkeshiensis、Malacobdella japonica、Tetrastemma nigrifrons、Tetrastemma stimpsoni、Amphiporus sp.、Lineus bilineatus、Procephalothrix simulus、Lineus torquatus、Lineus torquaticus及び同年9月に、大槌湾(岩手県)で採取したProcephalothrix属ヒモムシの2種、マダラヒモムシNipponnemertes punctatulus、未記載種を海水中で低温にて当研究室に運び、毒性試験、毒成分の組成及びGC-MS分析に供した。供試した紐形動物14検体のうち、マウスに対して明らかな麻痺毒性を示したのは、P.simulus(厚岸湾産;1222.8±97.3MU/g(n=3))とprocephalothrix類似種(大槌湾産;2,021±247.4MU/g(n=2)、1707.6±279.4MU/g(n=2))であり、他の種類からは、マウス毒性は検出されなかった。他の種類、特に、有針綱に属するものは毒性が検出されなかった。TTXが高濃度に蓄積されている種類は、毒性試験の結果から、採取地域に関わらずProcephalothrix属のみで他の種類では全く検出されていないことは非常に興味深い。この点が一般性を持つのか、また、進化・生態との関連性はどうなのかなど今後サンプル数を増やして比較検討していく必要がある。一方、紐形動物14種のHPLC分析用試料の一部を用いてアルカリ加水分解し調製したTMS誘導体のGC-MS分析から、C_9塩基の存在が観察されたのは、麻痺毒性の認められた北海道厚岸湾産P.simulus、岩手県大槌湾で採取したProcephalothrix属類似ヒモムシ(2種)の3種であった。興味深いことに毒性試験の結果が、ND(不検出)であった北海道厚岸湾産 L.torquatus、L.torquaticus及び岩手県大槌湾で採取したN.punctatulus、未記載種についてもC_9塩基の存在が認められた。これらの試料は、いずれもキナゾリン骨格(C_9塩基)に特有のフラグメントイオン(m/z=376、392、407)が、ほぼ同じ保持時間(12.09〜16.14分)で検出された。大槌湾で採取された2種類のProcephalothrix類似種は、共に外部形態の観察から広島湾産養殖マガキに付着しているヒモムシProcephalothrix sp.と同種と推定されるが、今後、詳細な内部観察を行う必要がある。
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