研究概要 |
アンドンクラゲ(Carybdea rastoni)のタンパク性の刺胞毒は非常に不安定なことで知られていた。今回の研究で本刺胞毒を安定した形で単離、保存することに成功した。それにより、単離できた化合物を加水分解後、いくつかのフラグメントを得てそれらの配列を解析した。その情報をもとにプライマーを作製し、アンドンクラゲ触手由来のmRNAから合成した1st strand cDNAに対してRT-PCRを行った。得られたPCR産物の情報に基づき、5',3'-RACEを行いアンドンクラゲ刺胞毒をコードする遺伝子の全長および刺胞毒のアミノ酸一次配列を明らかにすることができた。これはクラゲ毒の化学的性状が明らかにされた世界初の例である。またアンドンクラゲ蛋白毒は同一のアミノ酸配列を基本とする分子量4万3千と4万6千の毒素の二つがあることを明らかとし,実際に刺傷被害を引き起こす刺胞の中には分子量の小さい毒素のみが局在することを明らかにした。つまり当初分子量の大きな毒素が生産されたあと、切断などの修飾を受けて小さな毒素となって刺胞内に移行するシステムの存在が示唆された。また本毒は膜脂質構成成分の一つであるガングリオシドGM1によって、その強力な溶血活性が阻害されることを見いだした。この結果は本毒素の生体に対する最初の標的分子が細胞膜上の糖脂質である可能性があることを示唆するものである。
|