日本では中山間地域に対する本格的政策が2000年の直接支払制度を皮切りに始まろうとしている。そこでの問題は、たんに支払制度の単価上昇への要請に止まることなく、それを契機として、いかに新たな地域農業・資源管理システムの再構築を図るかにある。また、定住問題を考える上では、そこでの内発的発展をいかに促進しえるかが大きく問われることとなる。本研究では、こうした方向の模索と共に、それを促進するための地域主体のあり方の解明に大きな比重を置いてきた。そこでは従来の自治体による地域独占的なサービス供給方式から、多様な主体の参加を受け入れ、自治体はその要役を担うといった新たな農村ガバナンス方式の確立が必要ではないかという問題である。本研究では、わが国中山間地域の多様な農地管理の現場や、民間企業や民間非営利セクターをも取り込んだ農村活性化の現場の実態調査を行ってきた。前者では、特定農地貸付法を活用した都市・農村交流型農地管理、住民出資型農業公社による直接耕作、後者では地場産業や誘致企業による農村活性化事業への参画が対象となった。こうしたなかで、パートナーシップ型地域主体のわが国中山間地域における新たな意義と限界に関する検討を行ってきた。本研究のもう一つの大きな特徴は、農村振興政策に関する日英比較である。内発型農村発展をパートナーシップ・システムによって行いつつあるのがEUのLEADERや、90年代イギリスの農村開発政策である。本研究では、上記農村開発の現場を実態調査(イングランド、ウェールズ)するとともに、農村社会学会を中心としたパートナーシップ型農村開発の議論をトレースする中で、こうした新たな内発型農村開発政策の意義や限界の検討を行い、そうしたイギリスなどでの経験からわが国中山間地域政策が学びえるものを考察した。イギリスでは、北部ヨークシャー地域とウェールズ地域などにおけるLEADERの優良事例を分析した。こうしたイギリスでの条件不利地域マネジメント主体の確立施策は、わが国中山間地域の資源管理や活性化を行う際に決定的重要性を果たす地域主体づくりの方向を考えるうえで大きな示唆を与えることが明らかとなった。研究成果報告書は、「I日本農村におけるパートナーシップ・システムの可能性」「IIイギリスにおける新たな農村経営主体の意義と限界」「IIIイギリスの地域再生政策と日本の農村政策」の3部から構成されている。
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