国内市場に歪みはないという前提で、国境措置による歪みに焦点を当てた貿易政策の理論的考察を行った。得られた結論は以下の通りである。(1)すべての関税率をある目標水準に比例的に近づけるという国境保護削減政策は当該国の経済厚生を改善する。(2)最高関税率を次に高い関税率の水準まで削減するという貿易自由化政策は当該国の厚生水準を改善する。(3)関税化品目の関税率のすべてが同時にゼロではなく、輸入数量制限により国内価格と国際価格とが乖離し数量制限が効果的な場合、輸入数量制限品目の国内価格を基準とする内外価格差が、国内価格を基準とする最高関税率よりも高い品目の輸入数量制限を緩和すると厚生水準は改善する。農産物貿易制策への含意は以下の通りである。(1)ガット・ラウンドで目標とされてきた比例的な関税削減は世界全体の潜在的厚生水準を改善する。しかも、参加各国の厚生水準も上昇するため、引き続き比例的な関税率及び補助金率の削減政策が採られる可能性が大きい。(2)我が国の米のように極端に高い関税率は擁護され得ない。極端に関税率が高い財の場合には、その財の関税率を、国際的に見た当該財の関税率で次に高い水準と国内の関税率のなかで次に高い関税率のうちで小さくない方の水準まで引き下げることによって、世界全体の厚生水準ばかりか国内の厚生水準も改善することができるからである。最高関税率を据え置いたまま他の財の関税率を削減すれば、かえって全体としての歪みが拡大し、厚生水準に悪影響を及ぼす可能性が大きい。(3)内外価格差の大きな財がミニマムアクセスにより国境保護されている場合には、アクセス枠を拡大することによって厚生水準は改善され得る。(4)本当の意味で歪みのない状態を目指すとすれば、関税相当量の再評価を行なう必要がある。さらに、地域間産業連関分析により米の関税率削減により地域経済にどのような影響が生ずるのかを短期的視点から分析した。
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