我が国の国内農業は関税政策などの貿易政策により保護されている。ガット・ウルグアイ・ラウンド農業交渉では、すべての国境措置を関税相当量で置き換える関税化を行いその水準を順次削減するという合意が得られた。但し、コメに関しては関税化の特例措置として関税化を行わない代償として輸入義務が課せられた。ガット(現WTO)の究極の目的は「ディストーションのない自由貿易」を推進することであり、その理論的根拠は自由貿易により社会全体の経済厚生が最大化されるという命題に他ならない。ところが、実際の貿易政策を展望すると、農産物以外にも貿易政策により国内産業が保護されているのが実態である。このような状況の下では、農産物貿易政策によるディストーションだけに注目して貿易政策変更の厚生経済学的評価を行うことは好ましいことではない。 そこで、本研究では各産業部門で採用されている貿易政策を所与としつつ、国内の経済厚生水準を引きドげないような関税削減方法について理論的・実証的研究を行った。特に、関税化ではなく輸入数量制限により保護されている我が国のコメを念頭に置いて、貿易財を関税化品目、輸入数量制限品目と分類した上で国境保護削減方法を「次善の理論」をベースに考察した。理論的研究では、生産要素も生産物も対称に扱ったため、生産要素市場特に労働市場の特殊性を加味した理論モデルの構築までは至らなかったが、別途「産業連関分析」により、貿易政策変更の社会的コスト(短期的コスト)の一側面に関する数量評価を援用して、理論の補完を行った。生産要素市場の特殊性を加味した理論のモデル化は今後の課題としたい。
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