わが国養蚕業は、近年衰退の一途をたどり、産業としての役割・機能を失いつつあると判断できる。この産業機能の停止によって、どのような影響を、どの程度、どういう主体に与えるのかという問題を明らかにすることが本研究の主たる目的であった。平成11年度においては、以下の手順で研究を進めた。まず、既存の統計データを再整理し、わが国養蚕業の衰退の現実を、経営規模別の動向や労働力構成といった側面からデータで明らかにし、その衰退要因について分析を行なった。今年度は、主としてどういう影響・効果がどういう主体に及ぶのかという定性的分析に重点をおいた。国内の養蚕業の衰退は、輸入繭もしくは輸入生糸の増加をもたらすと考えられたが、近年では、繭・生糸の輸入はむしろ減少しており、絹製品などの二次製品の輸入が増加している。このことは、国内製糸業の生糸生産量や絹織物産地における絹織物生産量の著しい減少をもたらしている。すなわち、養蚕業の産業機能停止は、単に、製糸業の衰退だけでなく、さらに川下の絹織物産地にまで影響を及ぼしていることが明らかになった。しかし、製糸業や絹織物産地が、輸入繭や輸入生糸を用いた形で存続しうるのか、といった企業の意思決定の問題に注目する必要があった。このため、最大の生産国であり最大の輸出国である中国の現状について、山東省と浙江省でヒヤリング調査を行った。現在、中国においては、蚕糸の流通改革が行われており、政府の中央管理体制から各省の個別管理体制へと移行しつつある。そのため、各省によって価格差や品質格差が存在するものの、全体的には生産性重視から品質重視へと変わってきている。これは、中国産生糸の輸入増加の要因となり得るが、現状では、中国の産地はヨーロッパ市場を重視しており、わが国の製糸業・織物業の存続可能性は、ヨーロッパの市場動向に依存するのではないかと推測された。
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