当初の研究計画にそって、Iターン定住者の生活実態について調査をおこなった。こうした調査はインテンシヴにおこなう必要があるため、今年度は利便性も考慮しつつ、紀伊半島中央部の山間地域を対象に資料収集を実施した。 まず、昨年度に続いて林業関係のIターン定住者に聞き取り調査をおこなった。和歌山県本宮町ではすでに森林組合作業班の過半数をIターン者が占めるにいたっている。しかし、うち続く木材不況の影響で、作業効率の劣る女性Iターン林業者が解雇されるという事態が起きていた。また、過去を振り返ると、特殊免許を取得した後に森林組合を辞め、町を離れるという例も頻発している。こうした現象は、基本的には森林組合作業班従事における低賃金を背景にしていると考えられる。 一方、本宮町には農業の場を求めて移り住んだIターン者もいる。そうした中にY氏がいる。Y氏はすでに大阪府下で営農していた人物で、新天地を求めて本宮町に移住した。現代農民運動の中心人物の一人でもある。Y氏は、町在住のUターン者らとともに新しい地域おこしの団体を結成し、昨年から活動を始めている。Iターン定住者のインパクトとして、今後の展開を追跡する必要がある。これについては裏面にあげた論文で取り上げた。 林業や農業以外にも、本宮町には地元住民に「自然食」と命名されるIターン者が多く訪れており、必ずしも定着は進んでいないが、そのプロセスは今後の調査研究に値する。また、研究論文ではないが、「生き方としての新規参入(コメント)」(江川章『農業への新規参入』(日本の農業第215集)、農政調査委員会、155-158頁、2000年3月)も、本研究の成果を利用し、公表したものである。
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