本研究の課題は、農山村への多様なIターン者が地域社会に対してどのようなインパクトを与えるかを明らかにすることにあった。そこで農山村へのIターン者を農業、林業、その他という3種類の職業別に分類し、それぞれについてIターン者の意識や生活、職業選択の過程、および地域へのインパクトについて考察した。その結果、同じ第1次産業であっても農業と林業では、地域との結びつきにおいて大きく異なっており、農業は土地貸借や開業資金、機械装備などの関係で、地元社会と否応なく関係を持たざるをえないのに対し、林業の場合は一般には森林組合という組織に就職する形が多いため、開始にあたって地元とつながる必要が少ない。しかも、林業労働者に従来からみられる移動性の高さから、地域の側でも、やや疎遠な存在として考えていることがわかった。 その他の職種のIターン者も含めて総合的にみると、近年における都市からのIターン者においては、自らの生活歴を物語化する志向が感じられる。この志向は、近代社会の中で従来の意味での伝統が次第に力を失い、その伝統による指針を失った個人が新たな生きる意味を創造するために、自らの人生を物語化しているものと考えられる。これを受け入れ地域側から考えると、都市住民に物語を提供できるような場所であることが必要だということになる。この視点は、とくにIターンによる人口増をめざす農山村地域においては、考慮すべき知見となろう。 しかし伝統はまったく消失してしまうわけではなく、物語化された生活歴を構成する選択的な一要素として生き続けるのであり、それはグローバリゼーション下における地域の個性化とも相まって、Iターン者を核として新しい意味を付与されていることについても明らかにした。
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