研究概要 |
研究初年度にあたる本年度は,海のツーリズムの全体的な動向にかかわる基礎的な把握,コモンズ的な利用が求められる沿岸域でツーリズムの成長がもたらした諸インパクトの検証,漁村住民がどのようにツーリズムに取り組んで地域振興に活路を見出そうとしているのかという事例の検討,を中心に研究を進めた。 海のツーリズムが盛んな漁村地域を選んで実態調査を行った。ツーリズムが漁村社会にもたらしたインパクトは実に多様であり,漁村社会の取り組みによってはインパクトの形や程度は異なっている。 大規模リゾート開発が行われた沖縄県ではツーリズムは漁村社会との軋轢を高めてきた。だが最近,体験型ツーリズム,エコ・ツーリズムに取り組み,ツーリズムを地域の中核産業として育てようとする動きが各地に広がっている。リゾート・ホテルの中には観光客を隔離する戦略を改め,地域との結びつきによって観光客の多様なニーズに応える道を模索し,環境NGOが運営するエコ・ツアーと提携しようという動きがみられる。こうした状況変化のなかで、ツーリズムを地域社会のなかに組み込もうと努力している漁村ほど,ツーリズムをネガティブには捉えていない。恩納村の体験型ツーリズムは住民参加型ツーリズムの格好の素材となると思われた。 タイのプーケット島周辺の漁村でも事情は同じであった。欧米人観光客の間でエコ・ツアーへの需要が高まっているのを背景に,漁村社会はツーリズムに柔軟に対応していた。漁村開発の一つのオプションとして漁民がツーリズムを取り組むことが奨励されている点は興味深い。 地域の自然環境と資源利用をめぐってツーリズムと地域住民との間には鋭い対立がみられる。「コモンズ的」発想で沿岸域環境と資源を利用するための制度的枠組みを,地域の実情に応じて確立していく課題がある点が確認された。実態調査を通じて,類型的な制度的枠組みを想定できるめどがついた。
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