本年度の研究実績を計画に沿って以下の3点について述べる。 1.南アジアの発展途上国ブータンを対象として農政の浸透という観点から、行政組織及び集落組織の現実の機能及び問題点を、平成8、10年度に行った短期の現地調査・観察から得た知見と文献資料に基いて整理し、『放送大学研究年報』に発表した。「住民参加」を揚げたブータンの村開発委員会制度は、限られた財源下で公共事業を推進する開発初期段階において極めて重要な役割を果たしていること、同委員会の構成は集落組織を有機的に組み込んだ構造であること、日本の農業委員会制度に共通点を持つこと等が明らかになった。 2.ネパールでも持続可能な開発や参加型開発を主要な目的として地方分権化が推進されている。地方分権化に関する最新の基本的法律及び規則をネパール語から英語に翻訳し、制度的概要の理解を深めた。しかし、地方制度が充分に機能するには行政と住民組織との協力関係が築かれる必要がある。12年度は制度的枠組みの理解を一層進めると同時に、行政と住民組織に関するネパール語を含む文献収集と広島大学に留学しているネパール政府行政官とのインタビューを通して行政と住民組織の実態把握に努める。 3.前橋近郊の粕川村での調査を継続した。同村は、基盤整備事業の実施と同時に機械利用組合を組織し、ダイズ、小麦、米によるブロック・ローテーション体系を完成させ、高い農業生産力を実現させた。しかし、価格の低迷、オペレーターの高齢化等により新しい農業組織への改変が差し迫った課題となっている。機械利用組合をどう再編していくのかについて組合役員から聞き取りを行った。聞き取りから、地域住民中の非農家割合の増大、女性の役割の一層重視という状況を踏まえた農業委員会制度や行政と住民組織との関係の再編が不可欠であることが理解された。 村行政資料によって農業発展の動向と農業団体等の変遷、農業委員会の委員の構成、委員会が処理した業務等を把握する歴史的作業は残されてしまった。村行政文書の収集と公開が進んでいる県立文書館での関連する資料収集は12年度の課題である。
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