発展途上国における農業・農村開発は、農村公共土木事業から貧富の格差や貧困解消のための政策に重点が移りつつある。住民参加型農村開発行政支援に見られるように、地方行政と住民の自治組織との連携を強化し、住民の積極的参加と相応の負担を促す制度作り等に焦点が移ってきている。発展途上国のこうした農業・農村開発の課題に応える援助協力のガイドライン作成のために、本研究は、(1)発展途上国の農業政策の課題と農村の実態把握、(2)我が国の農業委員会制度の経験を相対化することを課題とする。 本年度では、(1)については次が明らかになった。バングラデシュ国別援助承策研究会の中間報告によると、政府開発援助における重点課題の一つである農村開発では、(1)貧困の雇用創出・所得向上、(2)地方政府組織強化が手薄であった点が明確化された。貧富の格差解消という社会政策的課題には、納税と計画の策定・決定・実施過程への住民参加が機能する地方政府組織の改革が必要である。こうした改善が進めば、地方制度を通しての政治の安定化が図られ、それが経済発展の基礎、さらに国家の安定化・効率化の条件を提供する。よい統治(good governance)はこうした改革を通して達成される。 (2)特に高度経済成長期まで農業・農村復興に果たした農業改良普員や生活改善普及員の役割を明らかにする資料の収集や研究会が進んでいる(佐藤寛・安藤和雄編『戦後日本の生活改善運動と途上国の農村開発研究基礎資料(1)』(JICA、2001年)。 農業委員会は、農地改革の成果を維持し、農村部での自作農としての家族労働に対する雇用機会を提供する条件を作った。かかる条件の下で、農業生産性向上と生活改善による人的資源開発が達成されたといえる。日本の如き厳密な土地改革を実施しない南アジア諸国では、地方自治体と行政についての一層精密な整理が必要・不可欠である。
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