本研究の課題は、世界有数の穀物輸出国カナダにおける穀物輸出システムの急速な構造変化の実態を解明し、それとの関わりで穀物輸出を独占する国家貿易企業カナダ小麦局の改革の背景と影響について検討を加えることである。あわせて、カナダの穀物輸出システムの中で重要な役割を果たしており、近年論議を呼んでいる穀物鉄道輸送問題の経過と最近の政策レビューについても整理し、現在の争点を明らかにする作業に取り組んだ。本研究によって得られた知見を要約すれば次のとおりである。 第1に、穀物輸出市場の変化にともない、主産地の平原諸州から積み出し港までの穀物の物流経路が激変した。太平洋岸のバンクーバーとプリンスルパートからの輸出が大きな比率を占めるようになるとともに、平原諸州から陸路アメリカ合衆国への輸出が増えた。 第2に、穀物輸出を担う穀物関連産業では、農家から穀物を集荷・保管するプライマリー・エレベーターの合理化と統合化が急速に進行した。また、多国籍アグリビジネスがカナダの穀物加工や集荷部門に進出して、北米規模での国境を超えた統合化が進んでいる。 第3に、小麦・大麦の輸出と国内販売を一手に独占してきたカナダ小麦局(CWB)の機構改革である。これによってCWBは連邦政府の公社から「生産者と政府が共同で運営する企業体」へとその性格を変えた。とはいえ、CWBは輸出独占の国家貿易企業として中心的な役割を果たしており、いまのところその事業運営に大きな変化はない。
|