反芻動物は上顎の切歯が退化しているが、この特徴が採食戦略のうえではどのように優れているのかを明らかにするために、1999年7月に実験を行った。使用した家畜は、サラブレッド種の去勢雄3頭とホルスタイン種の雌の乾牛3頭である。家畜に採食させた牧草は、ペレニアルライグラス(PRG)の葉身、トールフェスク(TF)の葉身、リードカナリーグラス(RCG)の出穂茎の3種類である。家畜に採食させる際、PRGとTFを組み合わせた草地と、PRGとRCGを組み合わせた草地を準備した。牧草を取り付けたポイントは合計15個であり、牧草の地上部の高さは12cmとした。15ポイントについて、すべてに2草種を混在させる実験と、8ボイントにPRGを、残りの7ポイントに別の草種を配置する実験を行った。家畜にこれらの牧草を採食させ、その時の荷重の大きさを測定した。 使用した牧草3種の1本あたりの破断強度は、それぞれ0.98、2.88、5.04kgであった。1分間あたりの乾物の採食速度は、ウシで61〜67gであったが、ウマでは80〜117gであった。これは合計バイト深と採食した葉数がウマで高かったためである。すべてのポイントに2草種を混在させた実験では、PRG/TFの草地では、ウシもウマも2草種を全く識別せずに、2草種を同じ割合で同時に採食していた。一方、PRG/RCGの草地ではウシはRCGの硬い出穂茎を採食したのは全体のポイント数の5%にすぎず、PRGの柔らかい葉身のみ選択して採食した。ウマはこのような選別ができず、PRGの葉身と共にRCGの出穂茎を採食したのは全体のポイント数の33%を占めた。上顎の切歯が退化しているウシは、硬い出穂茎が口に入っても、それを食いちぎることなく、柔らかい葉身のみを採食できるという、優れた採食戦略を取っていることが明らかになった。
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