哺乳動物の雌において、卵巣は全ての生殖機構に直接関わるコントロールセンターの役割を担っている内分泌器官であり、同時に生殖細胞(卵子)産生器官でもある。本研究では、卵巣上で起きる排卵とそれに引き続く黄体形成現象のparacrine/autocrine調節機構に焦点を絞り、細胞間の生理活性物質を介したコミュニケーションを中心に概念の構築を試みた。 本研究では、実際の生体内で正常に機能している卵巣内での現象を継続的に検出できる方法として、まず卵胞と黄体の『微透析システム(microdialysis system:MDS)』を開発した。本法により、特に急激な組織の"死"や"新生"を伴う排卵・黄体形成現象について、細胞間伝達物質のリアルタイム観察が可能になった。同時に、器官培養で維持された卵胞・黄体内に埋め込まれたMDSを介して、生理活性物質を正常な細胞間接着を保った細胞群に感作させると、細胞培養と異なる結果が多く得られた。さらに、諸現象に伴って血管内皮細胞性ペプチドとPG分泌が性ステロイドと共に大きく変動し、ステロイド産生細胞に決定的な影響を及ぼしていることが解ってきた。排卵時には、血管作動性ペプチドのアンギオテンシンII(Ang.II)とPGE2やPGF2αの局所分泌が活発で、これらの分子が協調して卵胞破裂を促進していることが示唆された。黄体形成時には、同様にAngIIとPG分泌が活発であり、急速な血管新生との密接な関わりが示された。実際、in vitroでの解析により、血管新生を促進する機構が黄体細胞のP分泌機能を強化する機構そのものに近い事が考えられた。 このように、ウシ卵巣上で繰り広げられる卵胞・黄体の新生と死には、血管内皮細胞と卵巣細胞による局所調節分子のクロストークによる複雑な相互作用が大きく関わっている事が明らかになった。
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