研究概要 |
近年、核移植胚由来産子の過大子症候群や免疫系の機能異常などの発生が多数報告されている。そこで、本研究では、ウシ核移植胚の正常性について、生殖生理学的および分子生物学的に検討した。 血清は、主にホルモンなどの補給を目的として、卵子や胚の培養液中へ添加されるが、血清中の未知成分により実験の再現性が損なわれるうえ、血清添加により異常産子が誘発される可能性も指摘されている。そこで実験1では、レシピエント卵子の成熟培養時の血清が核移植後の初期発生に及ぼす影響について検討した。その結果、血清添加の有無に関わらず、核移植後の融合率、卵割率および胚盤胞発生率はそれぞれ70,70および12%前後といずれも同程度であることが明らかとなった。 母ウシの妊娠子宮より得られる胎子由来細胞である羊水細胞を、核移植のドナーとして用いることが出来れば、優良遺伝形質を持つ産子や遺伝子組換え産子を、より早期に獲得することが可能となる。そこで実験2では、羊水細胞の分離・培養法と培養羊水細胞をドナーとして用いた核移植法について検討した。その結果、培養液にAmnio Max-C100を用いることにより、ウシ羊水細胞の分離・培養が可能となった。また、継代2-10代目の培養羊水細胞(5株)並びに培養胎子線維芽細胞をドナーとして核移植を行った結果、培養羊水細胞5区および繊維芽細胞区における融合率、卵割率および胚盤胞発生率は、それぞれ57-77%、61-92%および3-13%と、いずれも胚盤胞の得られることが示された。 以上本研究により、1)核移植胚のレシピエント卵子の成熟培養に血清は必要ないこと、2)羊水細胞をドナーとした核移植が可能であること、が明らかとなった。現在、血清添加および無添加の両区で得られた羊水細胞由来核移植胚について、その遺伝子発現等の分子生物学的検討や、受胚牛へ移植後の個体発生能等の生殖生理学的検討を進めているところである。
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