鶏の消化管には交感神経、副交感神経、Remakの腸神経による外来性神経支配、及び腸管の壁内に存在する筋層間神経叢と粘膜下神経叢による内在性神経支配があり、これらがお互いに協調して消化管の消化、吸収、排泄機能を調節している。本研究により次のことが解明された。鶏の脊髄における自律神経の節前細胞は哺乳類と異なり、一酸化窒素作動性でない。直腸を支配する仙髄副交感神経節前線維はすべて陰部神経を経て腸神経に投射するが、直接、直腸にまでは達しない。交感神経節後線維は仙部の幹神経節から陰部神経、あるいは仙骨内臓紳経と後腸間膜動脈神経叢を経て直腸に投射するが、腸神経ではなく、直腸の壁内神経叢を経由して投射する。一方、直腸を支配する知覚神経細胞は二峰性に分布し、胸腰部の脊髄神経節から起こる知覚神経線維は主に仙骨内臓神経から後腸間膜動脈神経叢、そして腸神経を経て直腸に投射するが、仙部の脊髄神経節から起こる知覚神経線維は上記の経路とともに陰部神経から腸神経を経て直腸に投射する経路もある。腸神経大腸部には盲腸に投射する比較的大きな神経細胞があり、その細胞体はエンケファリンを含む神経終末によって取り囲まれる。小腸の筋層間神経叢は一酸化窒素作動性神経細胞を含む神経節と神経線維束が網状構造を形成しているが、粘膜下神経叢の線維束は輪筋層に沿って平行に走行しており、線維束の所々に窒素作動性神経細胞が散在している。また、大腸の筋層間神経叢と粘膜下神経叢はともに窒素作動性神経細胞を含む神経節と神経線維束が複雑な網状構造を形成しているが、筋層間神経叢は消化管の頭尾方向に太い神経線維束を伸ばしており、一方、粘膜下神経叢は輪状方向に太い繊維束を伸ばしている。鶏の大腸におけるこのような複雑な神経支配機構は尿酸が排泄腔から盲腸へ逆蠕動されるという鳥類に特有な大腸の運動性と関係があるかもしれない。
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