本研究の目的はネコとイヌのカリシウイルスと細胞培養系を用いて、カリシウイルスの宿主特異性を規定する細胞側とウイルス側の因子を分子レベルで明らかにすることにある。本年度は、主に以下の3項目について研究を行い、いくつかの新たな知見を得た。 1.イヌカリシウイルス(CaCV)カプシド蛋白の発現とプロセシング:CaCVのORF2発現ベクターを構築し、ネコカリシウイルス(FCV)の3C領域発現ベクターとCOS細胞へ同時導入し、カプシド蛋白前駆体の発現と切断をイムノブロットで検討した。その結果、CaCVのORF2産物は75kDaのカプシド前駆体であり、3C領域発現産物のプロテアーゼにより切断され、57kDaのカプシド蛋白と22kDaのポリペプチドが産生されることが示された。 2.FCVのin vitroでの宿主域の検討:FCV F4株とF9株を用いて、由来動物の異なる3種の細胞株であるCRFK(ネコ由来)、Vero(サル由来)及びHmLu-1(ハムスター由来)での増殖性を比較検討した。FCV高感受性であるCRFK細胞に比べVero細胞での増殖効率は低く、FCV株間でもその効率は異なっていた。HmLu-1細胞では両FCV株ともに通常の感染・増殖は認められなかったが、ウイルスゲノムRNAを直接導入すると感染性ウイルスが産生されたことより、感染の成立には感染初期の吸着・脱穀の段階が重要であることが示された。 3.CaCVの感染を阻止するモノクローナル抗体の作出:CaCV感受性細胞であるMDCK細胞をBalb/cマウスに免疫し、常法に従いハイブリドーマを作出し、CaCVの感染を阻止するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。本抗体はMDCK細胞表面のCaCVレセプターを認識するものと考えられ、現在、その認識蛋白の同定並びに、各種細胞株との反応性を検討中である。
|