本研究の目的はイヌとネコのカリシウイルスと培養細胞系を用いて、カリシウイルスの宿主特異性を規定する細胞側とウイルス側の因子を分子レベルで明らかにすることにある。本年度は以下の項目について研究を行い、いくつかの新たな知見を得た。 1.イヌカリシウイルス(CaCV)の中和エピトープの同定:感染成立の第一段階である吸着で、ウイルス側の因子として重要な役割を果たしているカプシド蛋白上の中和エピトープをモノクローナル抗体と組換えカプシド蛋白を用いて同定した。その結果、2種の立体構造依存性の中和エピトープがネコカリシウイルスでは超可変部位として知られる位置にあることが明らかとなるとともに、CaCVでは連続的なエピトープが中和抗体を誘導しない可能性が示唆された。 2.CaCVのin vitroでの宿主域の検討:イヌ由来細胞4種及びネコ、サル、ハムスター由来細胞各1種の計7種の細胞を用いて、CaCVの増殖能と結合性を比較検討した。CaCVはイヌ由来の3種の細胞でCPEを呈し増殖したが、残りの4種の細胞では増殖を示さなかった。結合性も同様の傾向を示し、ウイルスゲノムRNAを直接導入した場合には細胞種にかかわらず子孫ウイルスが産生されたことより、CaCV感染の成立には感染初期の吸着・脱殻の段階が重要であることが示された。 3.CaCVのレセプターの同定:昨年度に作製したCaCVの感染を阻止するモノクローナル抗体(FE1)の性状解析を行った。フローサイトメトリー解析により、FE1はCaCV感受性細胞のみと反応し、非感受性細胞とは反応しなかった。さらに、FE1はCaCVの感受性細胞への結合を阻止することも示されたことより、本抗体はCaCVのレセプターを認識し、本レセプターの有無がCaCVの宿主特異性を規定することが考えられた。免疫沈降反応ではFE1はCaCV感受性のMDCK細胞表面の76kDaと65kDaの蛋白と反応した。
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