本研究の最終目的はイヌとネコのカリシウイルスと培養細胞系を用いて、カリシウイルスの宿主特異性を規定する細胞側とウイルス側の因子を分子レベルで明らかにすることにある。本年度は以下の項目について研究を行い、いくつかの新たな知見を得た。 1.イヌカリシウイルス(CaCV)全ゲノムの塩基配列の決定:ウイルス側の性状解析が遅れていたCaCVの全ゲノムRNAをカバーするcDNAをクローン化して、全ゲノムの塩基配列を決定した。その結果、CaCVゲノムはカリシウイルスの中で最長(8513塩基)であり、3つの翻訳可能領域(ORF)を有していることが明らかとなった。また、ゲノム5'側に存在するORF1の推定アミノ酸配列中にカリシウイルスの非構造蛋白に高度に保存されているアミノ酸モチーフが検出された。CaCVの各モチーフを含む推定アミノ酸配列と他のカリシウイルスのそれとを比較解析を行ったところ、CaCVはカリシウイルス科のVesivirus属の豚水疱疹ウイルスやネコカリシウイルス(FCV)とは近縁であるが異なるウイルスであることが証明され、CaCVはVesivirus属の新たなウイルス種であることが示唆された。 2.FCVの細胞側レセプターの解析:以前の研究で作出したモノクローナル抗体を応用して、FCVの細胞への結合性をフローサイトメトリーで解析するバインディングアッセイ系を作出した。本法を用いてFCVの細胞指向性と結合性の関係を解析しうるものと期待される。また、FCV感受性細胞であるCRFK細胞をマウスに免疫して、抗レセプターモノクローナル抗体の作出を試みたが、期待された抗体を産生するハイブリドーマを樹立するのには至らなかった。
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