ウマヘルペスウイルス1型(EHV-1)は妊娠馬に流産を起こす主原因の一つで、現在、流産防止の目的で不活化ワクチンが実用化されているが充分な効果は得られていない。申請者の教室では弱毒生ワクチンの併用を考えて強毒株をウシ腎(BK)細胞で343回連続継代してウマに病原性を示さない弱毒BK343株を作出したが、その感染防御能は不充分であった。そこで、有効な生ワクチン開発を効率良く行うために遺伝子組換え法の応用を検討しているが、潜伏感染の問題もあり実用化には至っていない。EHV-1による流産を防止するには、液性免疫だけでなく細胞性免疫を十分に誘導することが必須である。そこで、本研究では免疫調節・増強に関わるサイトカインと細胞性免疫を付与する特殊な塩基配列をもつDNA(DNAアジュバント)に着目し、これらの遺伝子を自然環境下では感染性ウイルスを産生しない組換えEHV-1ウイルスに導入し、その免疫効果をマウスモデルを用いて検証することを目的とした。EHV-1のウイルスゲノムから感染性ウイルスの構築に必須のgD遺伝子、ウイルスの生体での増殖性ならびに拡散に関わっているgE、gIと71番遺伝子を欠損させたウイルスを構築した。このウイルスは自立複製不能で、感染性ウイルスの作製は欠損させた4種類の蛋白が発現する細胞を用いて行った。次に、この自立複製不能型EHV-1へのサイトカイン遺伝子あるいはDNAアジュバント配列の導入を試みた。サイトカイン遺伝子としてはインターロイキン(IL)-2、IL-12とインターフェロン(IFN)一γ遺伝子を対象とした。現在、組み換えウイルスのスクリーニングを行っている。同様に、馬についても同種のサイトカイン遺伝子について組み換えウイルスの構築を進めている。
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