研究概要 |
ブタコロナウイルス、血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)の末梢神経系、中枢神経系での感染機序解明に関して下記の成績を得た。 1.ラット右鼻腔内接種したウイルスは2日後に右脳半球から検出され、3-4日後には左脳半球からも回収されたがウイルス感染価は右の1.0分の1以下であった。5-7日後には左右同程度の感染価となった。ウイルス抗原は3日後に嗅球神経細胞に検出され、4日後には嗅皮質神経細胞に、6日後には脳中隔核、傍室核及び上丘神経細胞に1-3日後にはアンモン角錐体細胞、下丘細胞、小脳プルキニエ細胞に認められたが、上衣細胞などのグリア細胞には検出されなかった。これらの所見からウイルスは嗅覚系、辺縁系、三叉神経系等を介して多シナプス性に感染を拡げることが明らかとなった。 2.ラット右眼房内接種では、3日後から網膜神経細胞、上丘神経細胞、一次視覚野、外側膝状体核でウイルス抗原が検出され、7日後には抗原陽性細胞数が増加した。ウイルス抗原は神経細胞に検出されグリア細胞には検出されなかった。これらの成績からウイルスは嗅覚系を介して感染を拡げることが明らかとなった。 3.1,2,4,8週齢ラットに各種経路からウイルスを接種し、週齢による感受性の違いを比較した。ウイルスに対する感受性接種経路は脳内、鼻腔内、皮下、腹腔内、静脈内、経口の順であった。1,2週齢では経口接種を除き大差はみられず、2週齢では経口感染に抵抗性を示した。4週齢では他の経路に対して感受性が低下し、8週齢では脳内、鼻腔内、皮下接種で死亡例が見られたが、他では全例生残した。ウイルス増殖部位を解析するために、直接脳内にウイルス接種を行い、免疫染色により検索した。ウイルス抗原は大脳皮質錐体細胞、海馬錐体細胞、橋や脊髄大型神経細胞、小脳神経細胞プルキニエ細胞に抗原が検出されたが、脳内接種でもグリア細胞には検出されなかった。 以上の成績からHEVがシナプスを介して神経細胞に感染し、グリア細胞は増殖しないことが解明され、ブタのHEV感染モデルとして、また、神経科学分野で神経伝導路解析のトレイサーとして応用可能であることが示された。
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