我が国における代表的な食中毒菌のひとつとして知られるYersinia enterocoliticaのうち、最も人に対する病原性が強いY.enterocolitica血清型O:8(O:8菌)のノネズミから人、またはノネズミからノネズミへの感染経路として、経口感染のほかにノミやダニなどの外部寄生虫が媒介者になっている可能性を探る目的で、1999〜2000年に、青森県、山形県、福島県および栃木県で捕獲したノネズミ(アカネズミ35頭、ヒメネズミ35頭、ハタネズミ5鎖、ヤチネズミ1頭、ヒミズ1頭)計77頭とこれらのノネズミから採取されたダニ類から本菌の分離を試みたが、ノネズミに寄生しているダニ類から本菌は検出できなかった。また、実験動物としてマウスを使い、本菌を経口的に感染させたマウスにダニを感染させ、その後、ダニを介し他のマウスに本菌の感染が起こるかを実験的に検討したが、ダニを介し他のマウスに感染を成立させることはできなかった。これらの成績から、O:8菌はダニのような外部寄生虫を媒介者として人や他のノネズミに関する可能性は低いものと思われた。しかしながら、ダニに吸血されたO:8菌が、生きてはいるが人工培地では発育できない状態(VBN状態)になっている可能性を考え、このような状態になった本菌を分離するための適切な分離法の検討を行なった。その結果、VBN状態になったO:8菌の分離には、O:8菌に対する抗体を貼り付けた免疫磁気ビーズとVYE培地に抗生物質を含まない培地を重層した培地を併用する方法が最もVBN状態の菌の回収率が高いことが判明した。
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