腸炎ビブリオ食中毒の疫学調査で最も困難な問題のひとつは、多くの事例で推定原因食品から耐熱性溶血毒(TDH)産生性腸炎ビブリオが検出できないことである。これは、TDH産生菌の汚染を受けた魚介類は同時にデロビブリオの汚染も受けており、短時間に増殖したTDH産生菌が食中毒を起こした後、デロビブリオの感染を受けて死滅したためと考えられる。 我々は沖縄県本部町の本部漁港と港外の海水から腸炎ビブリオを溶菌する125株のデロビブリオを分離した。この内の114株を用いてTDH産生菌15株に対する溶菌活性スペクトルを調べた結果、56種類に型別できた。デロビブリオCd22株を用いて、溶菌活性に対する水の塩分濃度の影響を調べた結果、本菌は塩分濃度35〜10‰の人工海水中では安定であったが、5‰以下では活性が低下した。デロビブリオYd9-1株の増殖に必要な腸炎ビブリオD3株の濃度は10^8cfu/ml以上であった。 次に、魚介類を汚染した腸炎ビブリオがデロビブリオYd9-1株により溶菌するか否かを検討した。インド産エビを二分し、一方にはD3株、他方にはD3株+Yd9-1株を加えて5℃又は25℃に4日間放置し、経時的に両菌株の菌数を測定した。その結果、D3株の菌数は、25℃保存検体では投与後2日目に10^8〜10^9cfu/gまで増加した後、減少に転じた。Yd9-1株の存在下ではD3株の菌数が1オーダー程度抑制された。5℃保存検体ではD3株の菌数に大きい変動は見られなかったが、Yd9-1株の存在下では1オーダー程度抑制された。魚介類を汚染した腸炎ビブリオはデロビブリオにより溶菌することが示唆された。
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