研究目的:腫瘍に至る血管と腫瘍内の微細血管の性状を観察し、正常な血管との相違を明らかにすることにした。 材料と方法:SD系ラット(♀)に、12 dibuty1benzanthracen(DMBA)を投与し、乳癌を発生させた。得られた乳癌にアクリル樹脂を注入し、血管鋳型を作成し走査型電子顕微鏡で観察した。また、血管壁構造を光学および電子顕微鏡を用いて詳細に観察した。癌の血管系の変化を、癌発生時の血管新生(癌の増殖期)から中心壊死による血管崩壊(癌の退行期)までを幅広く観察した。 結果:血管新生は次の過程を経ることが解明された。1)既存の血管に微細な棘状の突起が出現し進展し、(budding)、2)隣接する血管からも同様のbuddingが起き、3)両buddingは次第に進展し先端で連結しhair-pin loopを形成し、4)このhair-pin loopからさらにbuddingが起き、5)hair-pin loop同士が結合し複雑な微細血管網を形成する。癌の増殖がピークを過ぎ中心壊死が認められる血管では、新生血管は拡張し、血管の狭窄、血管腔の扁平化・断裂が起き、本来の血管構築が消失する。正常な動脈では、血管の分枝部分にintra-arterial cushion(血管内膜の肥厚により形成され、括約作用があり、分枝部での血流調節作用があると言われている)が認められるが、腫瘍動脈にはこのcushion構造は認められなかった。また、腫瘍動脈壁の平滑筋細胞には変性(形質溶解、空胞化)が認められた。
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