研究概要 |
矮性エンドウ(品種Progress)は,暗黒中では他の蔓性のエンドウ(品種Alaska)とほぼ同様に生長するが,赤色光が照射されると著しい生長抑制が起こり,始めて矮性形質が発現する.本研究の目的は,この矮性エンドウの矮性発現の仕組みを遺伝子レベルで解明することにある.3β-ヒドロキシラーゼ(3B-H)は,植物ホルモン・ジベレリンの合成代謝経路で特に重要な役割を持っている.そこで,本年度はこの3B-H遺伝子の光による発現特性を検討した. 暗所で育てた6日齢の矮性エンドウと蔓性エンドウに赤色光を照射し,両エンドウの生長及び3B-H遺伝子の発現量を定量的RT-PCR法で決定した.赤色光は両エンドウの生長を直ちに抑制したが,抑制の度合いは矮性エンドウで遥かに大きく,照射48時間後には,矮性エンドウで対照区(暗所の芽生え)の17%,蔓性エンドウでは62%に抑制した.3B-H遺伝子の発現量は,照射開始時では両エンドウで殆ど変わらなかったが,赤色光はこの遺伝子の発現を抑制し,48時間後には,矮性エンドウで対照区の50%に,蔓性エンドウでは60%に抑制した.従って,両エンドウでの3B-H遺伝子の発現量の差は大きくなく,赤色光による生長抑制の差を十分に説明できない.ところで,両エンドウの3B-Hタンパク質は,活性中心のアミノ酸残基1つが異なっていることが,両3B-H遺伝子の塩基配列から明らかになった.従って,これらの3B-Hの酵素活性の差が,両エンドウの生長に影響を与えている可能性がある.しかし,両エンドウの生長の差は赤色光照射で顕著になるが暗所では殆ど差がなく,3B-Hの酵素活性の違いだけではまた,両エンドウの生長の差を説明できない.今後は,矮性発現に関与していると考えられる別の遺伝子(すでに見出している光照射により特異的に発現すると考えられる矮性エンドウの遺伝子)の構造や機能を明らかにして行きたい.
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