研究概要 |
哺乳動物細胞のDNA複製開始と細胞分裂開始に必須とされるサイクリンA(CycA)の発現量は、G1後期から細胞周期の進行に伴って増大し、細胞分裂(M期)中期の急速な蛋白分解により消失する。従来その特徴的な蛋白分解はM期を完了して次のG1期への進行に必須であると考えられてきたが、本研究では体細胞型ヒトCycAの分解抵抗性変異体を用いて、CycAの蛋白分解がM/G1遷移に必須ではないことを見出した。また変異型CycAに付随するサイクリン依存性キナーゼ(CDK)活性を調べたところ、細胞分裂直後のG1初期に著しく抑制されたことより、哺乳動物細胞のM/G1遷移期においてCycAの蛋白分解に依存しないCDK活性抑制機構が存在することが示された。哺乳動物細胞においてそのような機構は新規なものであり、突然変異などによりサイクリン蛋白が正しく分解されない場合でも細胞周期を正常に保つための一種の"fail-safe"機構と考えられる。さらにこの活性抑制の分子機構について解析を行った結果、CDKの抑制的リン酸化によるものではないこと、G1初期において主要CDK阻害因子(CKI)p21,p27及びがん抑制因子p107が拮抗的にCycA-CDKに結合し、p21,p27を欠損している場合にはp107が補填的にCDK活性を抑制していることが明らかとなった。p1O7がin vivoで副次的なCKIとして機能するという証拠は本研究で始めて示されたものである。
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