ゼブラフィッシュ胚の発生において前中脳領域に特異的に発現するギャップ遺伝子Otxの機能について、分子生物学および細胞生物学的手法によって解析した。(1)Otxの強制発現による機能解析:ゼブラフィッシュOtxのcDNAから試験管内でmRNAを作製し、ゼブラフィッシュの一細胞胚に顕微鏡下で注入して強制発現させた。すると量依存的に原腸形成の阻害が起きた。このことからOtxの細胞運動への作用を疑い、16細胞期の辺縁の一つの細胞にOtxのRNAをgreen fluorescent protein (GFP)のRNAとともに注入し、GFPの蛍光によって細胞の追跡を行った。すると、GFPの蛍光を発する細胞が凝集し、原腸形成時の細胞運動から外れて卵黄上などに集塊となって係留した。一方で、32細胞期または64細胞期において将来の頭部領域の細胞にOtxを強制発現させたときには、Otxによってできた細胞塊はそのまま頭部の組織に組み込まれた。ケージド蛍光物質による細胞運動の追跡によると、この領域内の細胞が原腸形成中も領域内に留まっていることが示された。このことから、Otxはボディープラン形成中における細胞運動を制限することによって前中脳予定領域を決定づけると考えた。Otxにグルココルチコイドレセプターのリガンド結合部位を組み入れたコンストラクトを胚に強制発現させると、グルココルチコイド存在下でのみ、細胞塊ができた。このコンストラクトを発現する細胞が十分に拡散した後でグルココルチコイドを加えると、それらの細胞が凝集して小さな細胞塊を形成した。以上のことはホメオドメインを欠損するOtxのコンストラクトでは起こらなかった。また、GFPで追跡する代わりにLacZを組み込んだコンストラクトを用いても結果は同様だった。このことから、Otxによる細胞運動の制限が細胞間接着によると示された。(2)Otxの下流にあって細胞間接着や細胞運動に関与する因子を探す計画の一つとして、カドヘリンとプロトカドヘリンをゼブラフィッシュcDNAライブラリーからクローニングすべくスクリーニングした。これによって得たクローンの中には、既知のカドヘリンとプロトカドヘリンに加え、未知であると推測されるカドヘリン1種、未知のプロトカドヘリン2種が得られた。現在はそのクローニングと性質決定を進めている。
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