前年度は原子間力顕微鏡(AFM)で生きた細胞を液中観察するための基礎として、培養細胞を選択し、AFM測定条件の最適化を図った。今年度は、さらに以下の点を試みた。 1)液中培養細胞の細胞突起と細胞骨格の経時変化のAFM観察:前年度の研究で確立した測定条件にもとづいて培養した食道上皮癌細胞(C7細胞)の連続観察を行い、2分1コマのスピードで細胞突起とその細胞骨格の経時的形態変化を調べることを可能にした。さらに30分〜2時間の連続観察で得られた画像からコンピュータで動画を作製することで、細胞表面と細胞突起の動態をよりリアルに観察することができた。これにより培養下のC7細胞の細胞突起は伸長部では板状に、退縮部では糸状になることが明らかになった。伸長時の板状突起には線維状構造はみとめられなかったが、基部に瘤状の隆起が出現し、あたかも波が岸に押し寄せるようにその隆起が突起の先端(leading edge)に向かって移動する像をみとめた。 2)他の観察法による解析:上記で得られた像の信憑性を得る目的で、生きたC7細胞の位相差顕微鏡観察を試みたところ、AFMで見られたものと同様な細胞運動を確かめることができた。固定した標本を走査電子顕微鏡で観察すると、AFMの画像と対応できる細胞突起をみとめた。さらにC'細胞のアクチン蛍光染色標本では、板状突起の一部にアクチン蛍光が観察されたが、糸状突起にはほとんど蛍光を認めなかった。 以上のデータからC7細胞は細胞突起の活発な運動を行っていることを明らかにした。また突起の伸長部は板状をしており、アクチンを伴った瘤状の構造が突起の伸長に重要な役割を果たすことが示唆された。
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