本年度の目標は受容型チロシンキナーゼ及びそのリガンドの発現と神経の伸展経路の関係を明らかにすることであった。そこで肢芽に神経が侵入を始めた時期(H-Hステージ20〜24)の受容型チロシンキナーゼ(Cek8、Cek4)及びそのリガンド(EFL-1、Rab-1)の発現パターンを集中的に検討した。その結果、上下肢共に、肢芽の基部の背側(いわゆる肩の位置)にリセプターが腹側(いわゆる腋窩)にリガンドが発現していることがわかった。その中間で末梢神経叢が発達し、背側枝と腹側枝が分かれることも示された。この分岐点の組織構造をLacZウイルス標識の標本と一般組織切片標本で検索したところ、神経叢の先で腋窩動脈をまたぐように末梢神経が背腹に分かれていた。血管壁が特定の位置で神経に背腹の選択をさせるための構造になっているものと考えられる。しかしながらTanakaのグループによると、発生の進んだ胚子では伸筋群と屈筋群の筋膜がそれぞれ異なったリセプターやリガンドを相補的に発現しているわけではない。よって肢芽基部での発現パターンと神経の関係が最終的な関係を示唆していることにならない。よって今後肢芽の中での間葉細胞の移動について明らかにする必要がある。またLacZウイルス標識により、初期の神経分岐パターンは運動神経も知覚神経も基本的に同じであった。尚リセプターの阻害抗体による実験も行われたが、際立った成果は得られなかった。この点については継続的な作用が必要である可能性が高く、注入による一過性の阻害では効果が無いものと推察し、この方法での観察は断念した。
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