生体の中で神経と筋は一対一の密接な関係を持っていることは改めて指摘する必要もないことである。それは単に支配関係があるだけでなく、生き延びるために互いを必要としているという相補的関係が成立している。このような密接な関係がいつから発生するのか未だ解決されていない。また神経の研究に欠かせないのは標識である。本研究はLacZ遺伝子組み替えアデノウイルスを新たな細胞標識の材料として用い、末梢神経の発生とそれが支配する筋との発生学的関係を明らかにしようとしたものである。 ニワトリ胚子を材料にし、先ず神経がウイルスでどのように標識されるか検討し、ついで上肢と下肢のレベルで標識を行い、末梢神経の形成過程を連続的に観察し、神経が伸展する位置とそこの組織構造を検索した。ついで神経の分岐に関連した肢芽の分子的環境の検討として受容型チロシンキナーゼとそのリガンドの発現パターンを検索した。さらに肢芽に発生する筋の原基細胞が移動し個々の筋にまとまるまで神経とどのような関係を持つか観察した。その結果次のようなことが明らかになった。 LacZ遺伝子組み替えアデノウイルスは神経系の発生初期の研究には比較的簡便な標識であり、これにより末梢神経の伸展経路は知覚神経も運動神経も同じ環境を利用して伸展することが示された。その伸長は肢芽の中で背腹に相補的な発現パターンを示す受容型チロシンキナーゼとそのリガンドにより背側枝と腹側枝の分別が生じると思われる。この際血管も障壁となって分別の精度を高めているものと思われる。また支配非支配関係にある神経と筋の発生は直接関係を持たず、それぞれ独立した分化発生を進めていることが明らかとなった。
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