本研究の目的は新規に開発された細胞膜陥凹を抑制するコレステロール誘導体PEG-Cholを用いて、種々の細胞膜陥凹構造の細胞生物学的特性を検討することである。平成11年度の研究では以下の成果を得た。(1)ヒト赤血球を用いたPEG-Cholの細胞膜内分布の検討:正常ヒト赤血球に低濃度のPEG-Cholを加えると、5秒以内に光顕的に検出可能な突起形成が起こり、最終的には球状化した。突起を形成した赤血球を急速凍結・ディープエッチング法で観察したところ、突起部の細胞膜には顆粒状構造の集積が見られ、PEG-Cholの凝集像と考えられた。(2)PEG-Cholの細胞膜陥凹に対する効果の検討:カバーグラス上に培養したA431細胞をPEG-Chol処理し、取り込み能を検討したところ、液性取り込みは完全に阻害されたが、クラスリン介在エンドサイトーシスは軽度に阻害されたのみだった。エポン包埋超薄切試料の電顕観察では、PEG-Chol処理によりカベオラ陥凹は消失し、クラスリン被覆ピットの開口部が開大することが明らかになった。急速凍結・ディープエッチング法とカベオリン-1のイムノゴールド法を組み合わせることで、カベオラ被覆であるカベオリンは平坦な細胞膜の表面にパッチ状に検出された。このことより、PEG-Cholはカベオラの陥凹を阻害するが、被覆構造の脱落は引き起こさないことが示唆された。(3)カベオラ平坦化のシグナル伝達分子に対する影響:PEG-Cholで処理したA431細胞を固定し、抗カベオリン抗体で染色したが、明らかな局在の変化は認められなかった。PEG-Chol処理A431細胞をホモジナイズし、ショ糖密度勾配超遠心法で分画し、SDS-PAGE後抗カベオリン抗体でウエスタンブロッティングを行ったところ、PEG-Cholにより、caveolinを含む分画は軽い分画に移動していた。
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