マウス血管内皮細胞表面の糖鎖分布は臓器により微妙に異なることが、レクチン並びに糖鎖抗体(ガングリオ系糖脂質抗体も含む)を用いた組織化学的解析により明らかになった。一方、マウス大腸癌のin vivo肝転移モデル、およびマウス培養肝類洞内皮細胞に多血小板血漿(PRP)と癌細胞(colon26)を添加したin vitroの癌転移モデルを確立し、いずれの系でも、肝類洞内皮細胞に対する癌細胞の接着性は、血小板により促進されることを明らかにした。更に、レクチンの中でも特にECA(Erythrina crystagalli agglutinin)陽性の癌細胞は、ECA陰性の癌細胞より強く肝類洞内皮細胞に接着すること、及び血小板との接着性も高いことが示された。血小板自体の反応特性についても、細胞骨格成分の重要性について予備的なデータを得た。一方、癌細胞表面のECA陽性糖鎖の特性については、シアリルフコシルラクトサミンを含んだN-グリコシド型糖鎖であることが示された。更に、転移の臓器特異性に関しては、マウス大腸癌のin vivo肺転移モデルでは、ECA陽性細胞ではなく、L-PHA(Phaseolus vulgaris leucoagglutinin)陽性細胞が肺転移巣に集積することが示された。転移の臓器特異性を決定する因子としては、癌細胞表面の特異的糖鎖発現と、各臓器の血管内皮細胞表面の特異的糖鎖発現の双方、及びこれらを仲介する糖結合性因子が複雑に関与している可能性が考えられる。血小板が臓器特異的相互作用にどの程度関与しているかについては現時点では明瞭ではないが、癌細胞が内皮細胞に接着する比較的初期の過程を仲介しているものと推察される。
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