本研究は、多くの成長ホルモン(GH)産生促進因子の中から特にグルココルチコイドに注目し、ラット胎仔下垂体におけるGH細胞の分化過程においてグルココルチコイドがどのような役割を果たしているかを明らかにする目的で行われた。具体的には、グルココルチコイド受容体の発現、およびこれを介したグルココルチコイドの作用がGH細胞の機能的な成熟に必要ではないかとの仮説のもとに、まだGH産生の始まっていないと考えられる胎生15日目、16日目のラットの未成熟GH細胞に、人為的にグルココルチコイド受容体を発現させてGH産生が誘導されるかどうかを免疫組織化学的手法を用いて検討した。本研究では以下の結果を得た。(1)胎生15日のラット下垂体初代培養細胞にDEX(合成グルココルチコイド)を作用させると、GH陽性細胞の数が増加する。(2)この培養系にグルココルチコイド受容体を強制発現させておくとグルココルチコイドの作用が増強される。これらの結果はGH細胞の機能的発達過程でグルココルチコイド受容体の発現は重要な段階であることを示している。 さらに、GH細胞の機能的発達過程の解析の一環として、グルココルチコイドによるGHRH-受容体遺伝子の転写調節機構の解明を行った。GHRH-受容体遺伝子の5′-上流約3kbpをクローニングし、RT-PCR法とRNase protection法により転写開始点を同定した。GHRH-受容体5′-上流域約3kbはGH産生細胞特異的遺伝子発現を引き起こした。プロモーター領域を様々な長さに切断し活性の変化を測定することにより翻訳開始点から230bpの領域にグルココルチコイドによるGHRH-受容体遺伝子の転写調節に重要であることが明らかとなった。この領域には、典型的なグルココルチコイド応答配列(GRE)はみられないものの類似の配列が3カ所あり、グルココルチコイド受容体はこれらの配列に結合することによりGHRH-受容体遺伝子の転写活性を上昇させるものと推定された。さらに部位特異的変異の導入実験により、3カ所のGREのうち2つが実際にGREとして働いていることが明らかとなった。
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