研究概要 |
本研究では、胎生ラット下垂体における成長ホルモン(GH)細胞の機能的成熟過程を明らかにするため、特にグルココルチコイド(GC)に注目し胎仔下垂体におけるGC受容体の発現誘導およびGCによるGH産生誘導が如何なる分子機構によって引き起こされるのかを調べた。未だGHを産生していない胎生16日ラット胎仔下垂体の初代培養細胞にGC受容体を人為的に発現させたり、血清を含む培養液で培養するとGH産生が誘導されることから、GCはGH細胞の機能発達過程で重要な働きをしていること、およびGH細胞にGC受容体を発現させる因子は、血清中にふくまれるらしいことが解った。しかし、当初目的の一つとしていたGC受容体の発現誘導因子の同定は未解決のままである。胎生ラット下垂体ではGCはGHばかりではなくGHRH(GH放出ホルモン)に対する受容体発現も誘導する。本研究ではGHRH-受容体発現誘導におけるGC受容体の機能解析を分子レベルで行った。GHRH-受容体遺伝子の5'-上流約3kbpをクローニングし、RT-PCR法とRNase protection法により転写開始点を同定した。GHRH-受容体5'-上流域約3kbはGH産生細胞特異的遺伝子発現を引き起す事を確認した後、プロモーター領域を様々な長さに切断し活性の変化を測定、翻訳開始点から230bpの領域にGCによるGHRH-受容体遺伝子の転写調節に重要な配列が存在することを明らかにした。この領域には、典型的なGC応答配列(GRE)はみられないものの類似の配列が3カ所あり、GC受容体はこれらの配列に結合することによりGHRH-受容体遺伝子の転写活性を上昇させるものと推定された。さらに部位特異的変異の導入実験により、3カ所のGREのうち2つが実際にGREとして働いていることが明らかとなった。これらの結果は、GCは未知の遺伝子に作用してあるタンパク質を誘導し、その物質の作用を介してGH産生を高めるのに対し,GHRH-受容体遺伝子に対しては転写因子として働き、直接GHRH-受容体の転写を促進することが明らかとなった。
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