出生前後に人工エストロゲンであるdiethylstilbestrol(DES)を投与されたヒトや動物では生殖腺に形成異常や、腫瘍が発生する。この過程では、エストロゲン受容体(ER)を介しての転写調節のメカニズムに変化が生じていることが示唆される。成熟したDESマウス(生後5日間DESを投与)を去勢後、エストロゲン(E2)を投与し経時的にE2依存性に誘導されるc-fosとc-junの発現を、子宮において免疫組織化学、in situハイブリダイゼーション、ノーザンブロット法を用いて検索した。 DESマウスにおけるE2刺激前のc-fos mRNAの発現量は、対照マウスに比べ高かった(2.5倍)。E2刺激2時間後、c-fos mRNAの発現量は最大値を示し、DESマウスでは非刺激時の1.5倍、対照マウスでは15倍であった。c-fosの発現は上皮細胞にのみ認められたが、DESマウスでは上皮細胞間での発現は不均一であった。DESマウスにおけるE2刺激前のc-jun mRNAの発現は、対照マウスより低かった(0.75倍)。2時間後、両実験群ともc-jun mRNAの発現はピークに達したが、DESマウスにおける発現は対照マウスより低かった。E2刺激によってc-jun mRNAの発現は上皮細胞で減少し、間質および筋層の細胞で増加した。エストロゲン依存性の核内転写因子の発現、およびE2による誘導パターンの変化が子宮における腫瘍発生に関与していることが示唆された。
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