神経線維が損傷された場合、末梢神経系では局所の修復機構が働き、高い再生能力を示すのに対し、中枢神経系では再生しないか、あるいは異所性に神経回路が形成される。これらの中枢神経系と末梢神経系の修復機構の違いについてはまだ明らかでない。顔面神経は橋に起始する非交差性の運動神経であり、顔面神経切断実験モデルは末梢神経再生の分子機構の解析に最も適している。本年度は成体ラットを用いて片側の顔面神経を切断し、切断側とコントロール(非切断)側の顔面神経核との間でGDNF受容体遺伝子の発現に差があるかをノーザン・ブロット法、in situハイブリダイゼーション法を用いて検討した。顔面神経切断後24時間経過すると、顔面神経核におけるGFRα-1、c-Retの発現が上昇する。この上昇は切断側で7日まで続くことが分かった。このとき、顔面神経切断局所にGDNFをゲルフォームにしみこませた場合に受容体の発現が変化するかを同様に調べた。その結果、リガンドであるGDNFが神経切断部位から供給されることによって、(1)GFRα-1の発現は上昇しないこと、(2)c-Retの発現が単独で上昇することが明らかになった。これは、顔面神経切断によって運動神経のターゲットである骨格筋からの栄養因子(GDNFを含む)の供給が絶たれたために、運動神経の受容体発現が上昇していることを反映していると考えられる。特にGFRα-1はGDNFと直接結合するとによって、受容体型チロシン・キナーゼであるc-Retを活性化する事が知られている。すなわち、リガンドの欠乏を補おうとしてGFRα-1が上昇していることが明らかになった。
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