研究概要 |
平成12年度において以下の成果が得られた。 1.70kDa S6キナーゼは、現在、PI3キナーゼの増殖に対する促進効果を仲介する最も重要なエフェクター分子と考えられているが、S6キナーゼがサイクリンD1発現に関与しているか否かを、特異的阻害剤rapamycinを用いて検討した。その結果、成長因子で刺激していない細胞において野生型PI3キナーゼを発現させた場合のサイクリンD1誘導はrapamycinで完全に抑制されるのに対し、成長因子で刺激した場合のサイクリンD1誘導はrapamycinでほとんど抑制されず、S6キナーゼのサイクリンD1発現への関与が細胞の状況に依存していることが明らかとなった。 2.PI3キナーゼからサイクリンD1発現への経路に、PI3キナーゼの下流においてRas-MEK-ERK系の関与が存在するか否かを、Ras,MEK,ERKの優性不活型変異体発現ベクターのトランスフェクションやMEK阻害剤(PD98059)を用いて検討した。その結果、Ras-MEK-ERK系はPI3キナーゼの下流ではなく、これと平行して活性化されることがサイクリンD1発現に必要であることが明らかとなった。 3.PI3キナーゼによるサイクリンD1発現誘導にCキナーゼ(PKC)アイソフォーム、PKB/AktやRac-JNK系が関与しているか否かを、各々の優性不活型変異体を用いて検討した結果、これらの関与を強力に示唆する所見は得られなかった。
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