研究概要 |
興奮性神経回路発達に対する神経回路活動の関与は数多くの報告がある。これに対し、抑制性神経回路の発達変化の制御についての研究は技術的な制約のため殆どない。外界刺激によって抑制性入力のみを活性化することができるモデルとして、聴覚系外側上オリーブ核に入力する聴覚依存性抑制性回路を用いて、神経活動による抑制性神経回路機能の発達制御を外側上オリーブ核から急性単離した神経細胞にグラミシジン穿孔パッチ法を適用して検討した。この核に対する主要伝達物質であるグリシンは、生後1週目までは活動電位を伴う興奮性応答を引き起こし、生後2週目には細胞の過分極を伴う抑制性に発達変化した。この興奮から抑制性への変化は発達に伴う細胞内Cl^-濃度の減少によることが明らかとなった。この細胞内Cl^-濃度の発達減少のメカニズムとして、幼若期には細胞内外のNa^+濃度差に依存したCl^-の取り込みがあるために細胞内Cl^-濃度は高く保たれている。発達に伴い、細胞内外のK^+濃度差に依存したCl^-の汲みだし機構が機能的に発現するために細胞内Cl^-濃度は低くなる。この結果とCl^-汲みだしおよび取り込み機構はフロセマイドによってブロックされることから、2種類のカチオン-Cl^-トランスポーター(K^+-Cl^- cotransporter(KCC)とNa^+,K^+-Cl^- cotransporte機能の発達変化による細胞内Cl^-濃度の低下が、グリシンの興奮性から抑制性への変化の原因であることが判明した。この細胞内Cl^-濃度調節機構の発達変化は聴覚発生直前に内耳を破壊し、聴覚依存性入力を遮断すると抑制され、神経細胞に特異的に発現しているKCC2mRNAの発現が内耳破壊動物では成熟後も障害された。特に、同側内耳破壊によって聴覚依存性グルタミン酸作動性入力を遮断した動物では細胞内Cl^-濃度調節機構の発達障害は著明であった。以上の結果から、抑制性伝達物質応答は神経回路入力活動、特に発達期の興奮性入力によって制御されていることが判明した。
|