研究概要 |
本研究は、最近の遺伝学的解析によって若年者における高率の突然死を特徴とする家族性肥大型心筋症(HCM)を引き起こすことが明らかになった心筋トロポニンT(TnT)遺伝子の異常が、どのようにしてそのような病態を導くのかを明らかにするとともに、未だに不明な点が残されているTnTの筋収縮調節における役割を明らかにするために行った。現在までに15種類のミューテーションが見つかっているが、われわれは本年度の研究によって、3種類のヒト心筋TnTミュータントのcDNAクローニングに成功し、それらを大腸菌に発現させることによって計9種類のミュータントTnT分子をタンパク質レベルで得ることに成功した。得られたミュータントTnTをウサギの左心室より調製した脱細胞膜標本(スキンドファイバー)に直接組み込むことによって、それらのミューテーションが心筋収縮機能に与える影響を調べた結果、高い突然死発生率を伴い予後の悪いことが明らかになっているミューテーション(179N,R92Q,ΔE160,Int15G_1→A)はすべてカルシウムイオン(Ca^<2+>)に対する感受性を高めていることが明らかになった。一方、唯一予後が良好であることが知られているミューテーションF110IはCa^<2+>に対する感受性は変えず、最大収縮力を有意に増加させることが明らかになった。また、予後は不明であるがE244DとR278CはCa^<2+>感受性を増加させ、E163Kは逆にCa^<2+>感受性を低下させることが明らかになった。また、スプライスドナーサイトミューテーションInt15G_1→Aによって産生される2種類のC末端欠損ミュータントはどちらもCa^<2+>による力発生の協同性を低下させることが明らかになり、TnTのC端領域に存在するトロポミオシン結合領域が細胞内Ca^<2+>濃度変化に対する協同的な力発生において重要な役割を果たしていることが強く示唆された。
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