心筋虚血時の心筋保護作用を示す生理的機構として、アデノシンA_1受容体と、ATP感受性カリウムチャネル(K_<ATP>)の関与が数々の研究より推察されているが、どのように保護作用に寄与するのかは、直接的に証明されていない。最も考え得る作業仮設は、心筋虚血時には、A_1受容体が短時間のうちに増加し、その結果、細胞内のcAMP濃度の上昇を抑制し、細胞内Caの増加を防ぐとともに、この受容体と共役しているK_<ATP>が活性化し、虚血時の過度の脱分極を防ぐという概念である。そこで、本研究ではその作業仮説を証明するために、1)心筋虚血時にはA_1受容体が可及的速やかに増加すること、2)A_1受容体とK_<ATP>が何かしらの機構で共役していることの2点を明らかにしようとした。その結果、ラット心筋において5分間の虚血後10分間の再還流を行うことにより、A_1受容体mRNAの発現量がほぼ2倍にまで増加した。また、この効果は2分間のpreconditioningを虚血5分前に行うことにより優位に増強した。したがって、心筋虚血時にはA_1受容体が可及的速やかに増加することが明らかになった。ついで、第2の目的であった、A_1受容体と、K_<ATP>の機能的発現系における共役作用を検討した。K_<ATP>としては、K_<iR6.2>とSUR_<2a>の組み合わせを用いて実験を行った。チャネルの発現実験では、GFPを共発現させることにより、確実に遺伝子導入されている細胞をターゲットにして行った。その結果、この組み合わせでのチャネル発現にはまったく問題がなく、チャネルのGたんぱく結合部位のアミノ酸配列まで明らかにすることが可能であったが、この組み合わせにA_1遺伝子を組み合わせて共発現を試みたところ、GFPを発現させている遺伝子の確実に導入されている細胞においてさえも、チャネル機能を測定することができなかった。したがって、本年度に予定していた第2の目的であるK_<ATP>とA_1の共役機構は明らかにすることはできなかった。
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