本研究では、視交叉上核神経細胞のサーカディアンリズムを指標に、個々の時計遺伝子や候補遺伝子の機能を明らかにすることを目的として、自家繁殖したWistar系ラットおよびリズム変異マウスClockを用い、以下の実験を行った。 (1)単一視交叉上核細胞レベルでのBMAL1遺伝子機能の検討 マルチチャンネル細胞外記録システムを用いて新生仔視交叉上核の分散培養を行い、単一神経細胞の自発発火リズムを連側測定し、安定したサーカディアン周期のリズムを発振する時計細胞において、その様々な位相に時計遺伝子BMAL1、Per1のアンチセンスを投与し、その後の周期変化、位相変位を解析した。BMAL1アンチセンス投与では、個々の視交叉上核細胞においてリズム位相依存性の位相変位を確認した。アンチセンス効果は、免疫組織学的検索可能な抗体が作成できず、in situ hybridizationによるmRNA発現レベルでの判定に止まった。この結果、BMAL1遺伝子がリズム発振に必須の遺伝子であることが単一視交叉上核神経レベルで明らかとなった。使用したPer1アンチセンスは、in situ hybridizationにて遺伝子発現が抑制されなかったため、効果判定を行わなかった。 (2)Clock変異が視交叉上核神経細胞に及ぼす影響 Clock変異マウスの視交叉上核をマルチ電極上でスライス培養し、神経活動リズムを測定解析した。その結果、単一視交叉上核神経細胞の活動リズム周期は、Clock変異マウスで27.2時間、ヘテロで24.8時間、野生型では23.5時間であり、行動リズムの周期とほぼ一致した。また、神経活動リズムの振幅、リズムを示す神経の割合には野生型とClockマウスとの間に有意差がみられなかった。以上の結果、時計遺伝子Clockの変異は視交叉上核神経細胞活動のサーカディアン周期を延長させるが、リズム発振には影響しないことが分かった。
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