研究概要 |
低酸素換気応答は高地で生まれたヒト(high land nativel:HLN)では減弱し、逆に平地で生まれたヒトが高地へいくと亢進する。我々はHLNで観察される低酸素換気応答の減弱に、胎生期の低酸素暴露が関連するという仮説を設けた。即ち、母体を介した胎生期低酸素暴露により、馴化または発達可塑性(低酸素換気応答を構成する)を介して、生後の個体の低酸素換気応答は減弱する。 ラットを以下の2群に分割した。。(A群)低酸素環境下(11-12%:高度4000-4500mに相当する)で受精、妊娠(22-23日間)、分娩させ、生後4週間まで飼育し(胎生期低酸素暴露群)、以後は空気環境下で飼育した。(B群)空気環境下で受精、妊娠、分娩、生後12週間まで飼育した(対照群)。覚醒ラットを用いて、ホ-ルプレチスモ法により換気量を計測した。4種類の酸素濃度ガス(40,21,15,10%)を吸入させ、低酸素換気応答を決定した。 胎生期低酸素暴露群の低酸素換気応答は対照群に比較して、空気飼育後も2週間(生後6週目まで)低下していた。しかし、それ以降では対照群に比較して有意差を認めなかった。生後直後からの同程度の低酸素暴露により、低酸素換気応答が有意に変化しないことを考慮すれば、胎生期の低酸素暴露は個体の低酸素換気応答減弱(馴化)を誘導する一因子であると結論できる。またこの変化は不可逆的ではなく、この過程に低酸素換気応答を構成する神経回路(延髄内)での発達可塑性が関与しているとは考え難い。
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