高地で生まれた個体(高地民族)では、平地で生まれた個体が高地に移住した場合とは異なり、低酸素換気応答は平地の正常人と比較して減弱する。我々は、この低酸素換気応答の低下は、個体発生初期の胎児期における、母体を介した低酸素刺激により誘導された低酸素換気応答を構成する抑制性神経回路の強化によりもたらされた脳(呼吸中枢回路)の発達にともなう可塑性に基因すると考えた。 胎生期から生後4週間の低酸素暴露を行い、空気環境下に戻した4週後から12週まで、高炭酸ガス及び低酸素換気応答を測定した。低酸素換気応答は暴露直後から1週間までは減弱していたが、2週間以後では対照群と比較して有意差はなかった。 以上より、胎生期の低酸素暴露による低酸素換気応答の減弱は、一種の馴化であり、低酸素換気応答を構成する神経回路の発達可塑性によるものではないと結論された。
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