一日のうち一定の時間帯に限った暑熱曝露に対する時間記憶の形成について、その時間記憶形成に必要な暑熱曝露時間を検討した。環境温24℃、明暗周期12:12時間で飼育するラットに暗期の中間点より、約1時間30分、3時間あるいは5時間の暑熱曝露を加えた。暑熱曝露期間は連続10日間とした。いずれの条件で暑熱馴化した場合でも、腹腔内温の日内変動パターンが変化し、核心温が暑熱曝露時間帯の前30〜60分前より下降し、その体温下降はかつての暑熱曝露時間帯で継続した。次いで、一日のうち一定の時間帯に限る様式で高温あるいは低温に曝露され、これに馴化したラットの脳各部位におけるFos蛋白の発現の日内変動パターンを検討した。温熱曝露は暗期の後半の4〜5時間とし、曝露期間は連続11〜12日間とした。温熱曝露期間終了後、暗期の前半(M時間帯)、暗期の中間点(N時間帯)および暗期後半(A時間帯)の3時間帯においてラットを麻酔し、その脳を潅流固定した。摘出脳の切片を作製し、Fos蛋白を免疫組織化学的に染色した。対照群と寒冷馴化群の視束前野/前視床下部ではFos蛋白が発現した細胞数はM時間帯からA時間帯にかけて有意に増加したが、暑熱馴化ラットではA時間帯で減少した。視交叉上核では対照群のFos陽性細胞に時間的変化は無かったが、暑熱馴化および寒冷馴化群ではA時間帯からM時間帯にかけて減少した。視索上核、乳頭体上核、乳頭体外側核では対照群、馴化群ともFos陽性細胞数にM時間帯による変化はなかった。暑熱馴化および寒冷馴化ラットの室傍核でのFos発現細胞数はM時間帯からA時間帯にかけて減少したが、対照ラットでは変化なかった。一日一定時間帯に限る様式で温熱負荷をうけ、これに馴化したラットでは、脳内各部位の神経活動の日内変動パターンが修飾されるが、その変化パターンは暑熱馴化および寒冷馴化で異なった。
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