1)動脈圧変動がカオスであることが検証され、血圧調節機構には非線形性の調節システムが存在すると考えられた。また、調圧神経を除去した場合、明らかに相関時限が増大し、複雑性が大きくなった。 2)循環調節系におよぼす光環境の影響を、太陽光シミュレータを用いて検討した。自由行動下の猫の動脈圧波形を5msec.間隔で24時間連続記録した。全波長域(280nm-2800nm)、可視域(400nm-750nm)、紫外域(290nm-400nm)の光を各々3時間照射した際の動脈圧変動および心拍変動を解析した。光照射により、平均血圧、Max dp/dt、心拍数ともに照射開始30分間は明らかな上昇を示し、その後沈静化した。この反応は全波長域、可視域のみならず、紫外域の光環境においても同様に観察された。 3)さらに、動脈圧変動、Max dp/dt、心拍数に対しwavelet解析の適用を試みた所、照射開始30分間の血圧上昇期に約0.015Hzの特徴的な変動が観察された。カオス解析は統合的な調節システムの存在を検出するには優れた解析手法であるが、今回のような刺激に対する直接的な反応の解析にはwavelet解析を用いる方が有用であると考えられた。 4)覚醒下猫の血圧は、人との接触により大きく変動する。そこで、光照射、行動観察、データ取得等人的作業はすべて別室から遠隔操作で行える実験環境を構築し検討を行った所、同様な成績が得られた。 5)これらの成績は、視覚情報伝達系からの入力情報に対し、血圧変動を引き起こす循環調節機構の存在を示唆し、その調節機構は紫外線にも反応することを示している。これまで、血圧の概日リズムに対する光環境の影響は報告されているが、光照射による直接的な血圧反応は報告されていない。また、紫外域のみの光環境でも同様な反応が観察されたことは、紫外線を感受し伝達する神経機構の存在が示唆された。
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