脳損傷に伴う発熱はプロスタグランジン(PGE2)合成を介して起こる。このとき脳内のどの細胞がPGを合成するか、という点を免疫組織化学により検討した。PGE2合成に必須の酵素シクロオキシゲナーゼ(COX)にはCOX-1とCOX-2がある。COX-1は脳全体のミクログリアにconstitutiveに発現していた。一方COX-2は大脳皮質、海馬の神経細胞にconstitutiveに発現しており、炎症性の刺激で脳血管内皮細胞に誘導される。さらにCOXの酵素作用により産生されたPGH2をPGE2に変える酵素(PGE synthase:PGES)には膜型PGES(mPGES)と細胞質型(cPGES)がある。mPGESは平常時の脳ではほとんど発現していないが、炎症性の刺激で脳血管内皮細胞に強く誘導される。またこの時脳血管内皮細胞ではCOX-2とmPGESが共発現していた。一方COX-1陽性ミクログリアやCOX-2陽性ニューロンにはmPGESは誘導されない。cPGESが脳内に発現していることはすでに報告されているが、その脳内細胞局在は現在検討中である。これまでのところ、COXとPGESの共存が確認された細胞は脳血管内皮細胞のみである。しかし、脳損傷に伴なう発熱は炎症性のそれと異なり極めて潜時が短いことから、脳血管内皮細胞での新たなCOX-2とmPGESの誘導だけではその全体を説明できない。脳全体でCOX-1を発現しているミクログリアが脳損傷時のPGE2産生に関与していると考えられる。ミクログリアにおけるPGESの発現を現在検討してる。
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