これまで私たちはストレスにより起こるラットの血圧や心拍数の上昇反応ならびに発熱反応に、脳内アンギオテンシンII受容体が促進因子として働いている事実を発見した。さらに私たちは、アンギオテンシンII受容体が発熱に貢献している事実をマウスでも確認した。しかし、覚醒動物の脳内でストレスによりアンギオテンシンIIが実際に増量していることを示す継時的証拠は未だ報告されていない。本研究では、ストレスが加えられた覚醒ラットの脳内で如何にアンギオテンシンIIが分泌されているかについて、マイクロダイアライシス法を用いて検討した。 平成11年度は、ラットに炎症ストレスとしてプロスタグランディンEの脳内投与を行った。マイクロダイアライシス法により同ラットの視床下部の潅流液を回収し、アンギオテンシンIIの濃度変化を測定した。その結果、回収した潅流液中のアンギオテンシンIIの増量を確認した。この知見から、プロスタグランディンEが視床下部で作用するとアンギオテンシンIIが産生・放出され、これがプロスタグランディンEによる発熱反応において促進的に作用するものと考えられる。今後はPGE発熱をテレメトリー法により測定しながら視床下部でのアンギオテンシンIIの放出を観察する。また、潅流液にアンギオテンシン変換酵素阻害薬(lisinopril)を混入して同様の実験を行い、実際に放出されているアンギオテンシンIIのPGE発熱における役割を明らかにしたい。 平成12年度は、炎症ストレス以外のストレスとして緊縛ストレスをラットに負荷し、視床下部でのアンギオテンシンIIの放出をマイクロダイアライシス法にて検討した。アンギオテンシンIIの神経末端と受容体の豊富な室傍核と視束前野で実験を行ったがいずれの部位でもアンギオテンシンIIの放出は確認されなかった。すなわち、ストレスによりアンギオテンシンIIの放出はないか、あってもこの方法では検知できなかったものと考えられる。マイクロダイアライシス法での回収率が14%前後であることに加えて、ペプチドは大変不安定であるので、同法の条件設定を考える必要がある。今後は、アンギオテンシンIIを分解する酵素の阻害薬を潅流液に混入して同法を行うなど一層の工夫をして、緊縛ストレスによるアンギオテンシンIIの視床下部での放出の有無を明らかにしていくつもりである。
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