研究概要 |
睡眠・覚醒の調節にかかわる構造の中で、私たちが従来から追求してきたのは脳幹ニューロンの活動であるが、ある人たちは視床下部(特に視索前野)の役割を研究してきた。その脳幹と視床下部の関係を追求するためにまず行ったのは、脳幹のアセチルコリンニューロンの活動を記録して、それに対する視索前野、後部視床下部、前頭葉皮質、視床の刺激による反応を見ることである。その結果、逆行性反応も順行性反応も視索前野の刺激で最も多く引き起こされ、すなわち、アセチルコリンニューロンの投射先としても、アセチルコリンニューロンの活動に影響を与える部位としても、視索前野が重要であることがわかった。睡眠物質などが作用して睡眠をおこすように働く部位である視床下部と、覚醒や逆説睡眠をおこす直接の指令を広く脳全体に伝える脳幹の間に、このように密接な関連があることは当然であるが、それをこのように実証した。 そこで、視床下部はどのような形で脳幹ニューロンに影響を与えるかを追求するために、まず今年調べたのは、脳室内投与によって逆説睡眠を増やすことがわかっているプロラクチン(視床下部に支配される脳下垂体前葉ホルモンであるが、視床下部ニューロンにもこれを含むものがある)のアセチルコリンニューロンに対する作用の有無である。プロラクチンは分子量22,000ほどのタンパクであるため、これをどのようにして作用させるかの技術的な困難の克服に少し時間がかかったが、ガラス管を張り合わせた多連電極から空気圧によって注入する方法を確立して、この実験がうまく行くようになった。その結果、アセチルコリンニューロンの約半数はプロラクチンで興奮し、抑制されるニューロンはなかった。その周囲にある非アセチルコリンニューロンの約半数もプロラクチンで興奮した。このアセチルコリンニューロンの興奮が逆説睡眠を増加させるものと考えられる。
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